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ストレスと上手につきあう生活習慣

ストレスと上手につきあう生活習慣 健康

夕方六時すぎ。処方箋の受付が一段落して、調剤室の窓から西日が斜めに差し込むころ、その方はいつも来られます。四十代の女性、Kさん。会社帰りらしいスーツ姿で、カウンターに肘をついて、少し困ったように笑うのです。

「先生、あの……最近、なんか、寝つけなくて」

ドリンク剤の棚の前で十分ほど迷ったあと、結局なにも買わずに、そう切り出す。こういうお客さま、本当に多いんです。血液検査はどこも異常なし。病院に行くほどでもない。でも、朝の目覚めが重い。肩が石みたいに硬い。理由もなく胃のあたりがきゅっとする。──「ストレスですかね」と、ご自分でぽつりとおっしゃる。

薬剤師として店頭に立っていると、この「なんとなく不調」の相談が、風邪の相談と同じくらい多いことに気づきます。今日はそんな、店頭でよく聞かれる質問に答えるかたちで、ストレスと上手につきあう生活習慣についてお話しします。

「気のせい」ではありません。体は先に声を上げます

ストレスがかかったとき、私たちの体は自律神経やホルモンのはたらきを通じて、いわば「戦闘モード」に切り替わるとされています。心拍が上がり、筋肉がこわばり、消化のはたらきは後回しになる。短時間なら乗り切るための仕組みですが、これが何週間も続くと、体のあちこちにサインが出てくると言われています。

面白いもので、多くの方は「気持ちがつらい」よりも先に、体の変化に気づきます。Kさんも、最初におっしゃったのは「寝つけない」でした。心ではなく、肩や胃や睡眠が、先に手を挙げてくれるのです。

店頭でよく聞く「あるある」サインと、まず試せる工夫

よく聞くお声 背景として考えられること 今日からできる工夫
「布団に入っても頭が回り続ける」 寝る直前まで脳が働き続けている状態 就寝1時間前はスマホを別の部屋に。明日やることを紙に3行書き出す
「朝、肩と首がガチガチ」 緊張が続き、筋肉がこわばりやすい状態 入浴で肩まで温める。デスクで1時間に一度、肩を10回まわす
「食欲がないのに甘い物だけ欲しい」 食生活の乱れ、血糖の変動 朝にたんぱく質(卵・納豆・ヨーグルト)を一品足す
「夕方になると頭が重い」 水分不足やカフェインのとりすぎも一因に コーヒーは午後2時までを目安に。かわりに白湯や麦茶を
「休みの日も気が休まらない」 オンとオフの切り替えができていない状態 「なにもしない30分」を予定として先に確保する

ただし、これらのサインが2週間以上続く、体重が急に減った、動悸が強い、気分の落ち込みが仕事や家事に影響している──そんなときは、生活習慣の話の前に、医師にご相談ください。「ストレスだと思っていたら甲状腺や貧血だった」というケースも、店頭で実際に経験しています。

睡眠は「長さ」より「入り口」を整える

「何時間寝ればいいですか」とよく聞かれますが、私はいつも「何時間か、より、どう入るか」とお答えしています。眠りは、スイッチを押して落ちるものではなく、坂道を下りていくようなもの。その坂の入り口が急だと、うまく下りられません。

  • 起きる時間を固定する……寝る時間より、起きる時間のほうが体内リズムに影響しやすいとされています。休日の寝坊は+2時間までを目安に。
  • 朝の光を浴びる……カーテンを開けて15分。通勤の一駅分を歩くのも良い方法です。
  • 入浴は就寝の90分前に……一度上がった体温が下がるタイミングで眠気が訪れやすいと言われています。
  • 寝床は「眠る場所」に限定する……ベッドで動画を見る習慣があると、寝床が覚醒の場所として記憶されやすくなります。

店頭でよくいただくご質問にお答えします

Q. ストレスに効くサプリはありますか?

正直にお伝えすると、サプリメントや健康食品は食品であり、「ストレスが治る」「不眠が治る」といった効能効果をうたうことはできません。私たち薬剤師も、そうした説明はいたしません。栄養バランスが偏りがちな方が、食事を補う目的で利用されるのは選択肢のひとつですが、あくまで土台は食事・睡眠・運動です。「これさえ飲めば」という発想になったときこそ、いったん立ち止まっていただきたいところです。

なお、持病のある方や薬を服用中の方は、健康食品でも飲み合わせに注意が必要な場合があります。購入前に、成分表示を持って薬剤師にご相談ください。

Q. 眠れないので、市販の睡眠薬をください

薬局で購入できる睡眠改善薬(ジフェンヒドラミン塩酸塩などを含むもの)は、添付文書上、「一時的な不眠(寝つきが悪い、眠りが浅い)」の緩和を目的としたお薬です。逆に言えば、慢性的に続く不眠や、不眠症と診断された方には使えません。連用もできず、2〜3回服用しても改善しない場合は服用を中止して受診いただくことになっています。

「毎晩、これがないと眠れなくて」という段階に入っているなら、それはOTCの守備範囲を越えたサインです。恥ずかしいことでも、大げさなことでもありません。

Q. 栄養ドリンクを毎日飲んでいますが大丈夫?

製品によりますが、カフェインを含むものが少なくありません。夕方以降に習慣的に飲んでいると、夜の眠りの入り口を自分で急な坂にしてしまっている可能性があります。「疲れる→ドリンク→眠れない→翌日疲れる」という循環に入っていないか、飲んでいる時刻を一度確認してみてください。

Q. お酒を飲むとよく眠れるのですが

寝つきは良くなったように感じても、夜間に目が覚めやすくなり、眠りの質は下がりやすいとされています。「眠るための一杯」が習慣化している方は、量よりまず、週に2日の休肝日から。

「ちゃんとやる」をやめると、続きます

あの日、Kさんに私がお願いしたのは、たったひとつでした。「夜、スマホを枕元じゃなくて、玄関に置いて寝てみませんか」。運動もしましょう、食事も見直しましょう、と十個お伝えしたところで、たぶん一つも続かない。それは店頭で何度も見てきたことです。

ひと月後、Kさんはまたカウンターに来られました。今度は、少しだけ軽い顔で。「まだ完璧じゃないんですけど、二時に目が覚めるのはなくなりました」。そして、こう続けたのです。「玄関に置くと、朝、取りに行くために起きるんですよね」。思わず二人で笑いました。

ストレスは、消し去るものではなく、つきあい方を覚えていくものだと思います。うまくいかない日があっても、それは失敗ではありません。整えられる日が、少しずつ増えていけばいい。

まとめ

  • ストレスのサインは、気持ちより先に「睡眠・肩・胃」など体に出やすいとされています。まず気づくことが第一歩です。
  • 睡眠は長さより入り口。起床時刻を固定し、朝の光を浴び、就寝前のスマホを手放すだけでも整いやすくなります。
  • サプリメントや健康食品は食品であり、ストレスや不眠を治すものではありません。土台はあくまで食事・睡眠・運動です。
  • 市販の睡眠改善薬は「一時的な不眠」が対象です。毎晩必要な状態や、2週間以上続く不調は受診をご検討ください。
  • 新しい習慣は一つだけ、小さく始めるのが続けるコツ。服用中のお薬との兼ね合いも含め、迷ったら薬剤師や医師にご相談ください。

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